自己組織化現象としての植物の生長

 この研究は応用と基礎の両方を兼ねそなえています。 まず応用面から話すと、将来の農業生産の工業的制御を実現することを目的としています。 それは、植物の生長を植物から発する情報を逐一センシングして、その意味を理解したのちに、 外部から目的とする最適の制御を行うことです。 そのための情報として私たちは植物が発する極微弱光を光子計測法によって検出し、 どのような状況でどのような光子を放射するかを研究しています。 そして、塩や乾燥などのストレスによってよく発光することが分かってきました。
 もう一面は純粋に基礎的な問題で、非平衡散逸系における自己組織化の問題です。 植物の種子は発芽時に成長促進ホルモンや阻害ホルモンの作用によって発芽成長がコントロールされています。 これは反応拡散系の問題と類似のダイナミックスで、 反応拡散系では静止パターン(チューリングパターン)や振動パターンがその方程式の解として予測されています。 植物のような生物系で、そのような各種のパターンの発見とその遷移機構を、 成長機構のミクロなメカニズム(遺伝子レベル)とともに明らかにすることをねらっています。 まだ道のりは遠いのですが、植物のような分散制御システム系の機能発現の秘密を知りたいと考えています。

 そのために、実験シミュレーションを併用してホルモンを介した植物の集団生長を証明するための研究などを行っています。



オジギソウの葉の就眠運動【概日リズム】
 室外で生育したオジギソウを暗室・温度一定の環境下に置いたときの様子。葉は自律的に朝方に開きはじめ、 昼過ぎに閉じはじめる。この葉の開閉運動は約24時間の周期を持っており、5日以上継続している。 この約24時間周期のリズムは「概日リズム」(circadian rhythm)と呼ばれ、葉の就眠運動だけでなく、 気孔の開閉、呼吸、光合成、生長速度など多くの生理現象においても観測される。
 概日リズムは微生物や植物、動物などほとんどの生物で観測できる。 現在、概日リズムの発生機構が遺伝子レベルで次々と明らかされている。 それは動物・植物に共通し、ある特定の遺伝子(時計遺伝子)の発現・作用過程に自己触媒現象があることから、 周期約24時間のリズムが生じるというものである。

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アズキ幼苗の回旋運動【circumnutation】
 暗室、温度一定の環境下でアズキを生育したときの様子。 茎が周期約1時間で規則的に楕円を描きながら生長している。この植物の茎や根の先端部が, 円あるいは楕円に近い軌跡を描いて成長する運動は「回旋運動」(サーカムニューテーション)と呼ばれ、 マメ科植物だけでなくやヒマワリ、カラシナなどでも観測される 。この運動は、茎の生長帯の細胞が伸縮することで起きる。

     
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