ソフトマテリアル             大学院工学研究院 原 一広

ソフトマテリアルは、ソフトマターとも呼ばれ通常の硬い物質に対比して使われる用語であり、系を特徴付ける相互作用がファンデルワールス力、水素結合、疎水結合等の比較的弱いものを指します。
 この為、ソフトマテリアルは微少な環境(応力、電場、磁場、温度、化学反応)変化に対して大きな応答(変化)を示したり、よくメソスコピックスケール(原子スケールと巨視的スケールの中間的大きさ)の領域で単純な固体・液体では出現しない多彩な現象や構造を出現させ、新たな環境応答材料・新素材としても期待されています。
 この様な状況から、これまで私たちはシンクロトロン放射光を利用したX線小角散乱(SAXS)や中性子小角散乱(SANS)の観測をはじめとした様々の観測を行い、高分子ゲルの種々の環境下におけるメソスコピックスケールの構造変化・物性変化についての研究を行っています。

 高分子ゲルの膨潤に伴う表面パターンの経時変化
  (滑らかだった表面に小さな凹凸ができ、次第に大きくなる)


 
  エタノール溶媒    真空乾燥    自然乾燥
   乾燥条件によるゲル乾燥物の表面構造変化

粉粒体の統計力学              大学院理学研究院 中西 秀

誰もが知っているように、粉粒体は、小さな粒子が数多く集まったものです。砂浜の砂から台所にある砂糖や小麦粉など、何処にでも見られ、一つひとつの粒は何の変哲もない粒子です。しかし、それが多数集まった時の振る舞いは、ある時には固体のようにしっかりとかたまっていたかと思うと、ある時には液体のように流れ出したり、よく混じりあった2種類の粒子の混合物に振動を加えるとそれらが自然に分離したり、と言うように、通常の物質とはかなり異なり、しばしば予想に反した性質を示します。
 多数の原子分子が集まった系の振る舞いに関しては、平衡の統計力学と呼ばれる理論を用いて良く記述されることが知られています。最近の高温超電導の理論や、固体の伝導度や磁性、液体中の拡散、化学反応の理論などにさまざまな系に応用され、多くの成果を上げてきました。ところが、この平衡の統計力学は、粉粒体のように、構成要素自体が多数の原子分子からなるような場合には、現在のままではうまく適用できず、それが上のような不思議な現象が粉粒体に現れる理由でもあります。
 我々は、粉粒体のダイナミクスを計算機でシミュレーションする為の、非常に効率的なアルゴリズムを開発し、パソコン上で100万粒子もの粉体粒子の分子動力学シミュレーションを行ないました。その結果、一様な状態が不安定化して粒子密度がまだらになるなど、原子分子系では見られないさまざまな現象が観察されています。粉粒体系を一つの題材にして、構成要素自体がマクロな系に見られる特有の現象、そのダイナミクスや統計力学の理論的手法を開発を目指しています。
我々は、粉粒体のダイナミクスを計算機でシミュレーションする為の、非常に効率的なアルゴリズムを開発し、パソコン上で100万粒子もの粉体粒子の分子動力学シミュレーションを行ないました。その結果、一様な状態が不安定化して粒子密度がまだらになるなど、原子分子系では見られないさまざまな現象が観察されています。粉粒体系を一つの題材にして、構成要素自体がマクロな系に見られる特有の現象、そのダイナミクスや統計力学の理論的手法を開発を目指しています。

自然発生する階級制
  --勝ち組と負け組はなぜできるか
 

                                               大学院理学研究院 小田垣 孝

 動物の社会や人間の社会の中には、勝ち組と負け組が出現するすなわち一種の階級が自然に出現する。この典型的な社会現象のなぞに潜む普遍的原理を見つけることがこの研究の目標である。簡単のモデルとして、平面上を歩き回る人の集団を考える。それらの人たちが出会ったときに互いに戦うものとし、勝つ人は常に勝ち、負ける人は常に負けるという社会構造が出現するかどうかを調べる。
 個々人の持つ戦闘能力は、勝と増加し、負けると減少する。また、全く戦いが行われないと戦闘能力は減衰あるいは回復して元に戻る。二人の人が戦ったとき、勝者は二人の戦闘能力の差によって、確率的に決まるものとする。この確率関数が与えられると、社会の特徴は密度によって決まることになる。
 密度が低いときは、勝った経験が生かされることは少なく、階級が発達しないが、ある程度密度が大きくなると、勝ち組と負け組が出現する事が予想される。下図は、500人の社会の中の特定の15人に着目し、それらの人の時々刻々の勝つ確率を3次元的に示したものである。密度が低い場合(a) では、勝ち組、負け組の固定化は見られず、確率は大きく変動している。一方、密度の高い場合(b)には、勝ち続ける人、負け続ける人が出現している。これらの社会学や経済学のように、従来文系と見なされてきた分野においても物理学の方法論は極めて有効であることが示されており、今後のますますの発展が期待されている。 


           階級制のない社会

              階級社会
図6. 自然発生する階級制

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